学校の運動部、いや運動部に限らず体を鍛えるといえばまずランニングじゃ!みたいな感じで、グラウンド5周とか10周とか30分ランニングとか、いまでも多くの人たち、多くの場所で行われているのがランニングやマラソンでしょうか。
軽いランニングやジョギングのような「有酸素運動」は成人病の予防に効果があると考えられているのは確かですが、ではトレーニングとしてはどうでしょうか?特に空手が強くなる効果がランニングにはあるのか?「持久力を鍛えている」と言いますが・・・
結論から言いましょう。ない(汗)。
体を動かすためのエネルギー代謝、つまり筋肉を動かすエンジンシステムは三段階あります。
第一段階は、日常的な生活運動からランニングなどローパワーで長時間継続して動きつづけるような運動で使われる「有酸素性機構」です。これは脂肪と酸素を使ってエネルギーを作ります。脂肪を燃やした代謝物質として二酸化炭素が産生されます。
そしてだんだん運動が激しくなり心拍数が上がって必要なエネルギーが足りなくなってくると第二段階「乳酸性機構」が発動します。これは酸素は使わず筋肉や肝臓内に貯蔵された糖質を使ってエネルギーを作ります。糖質を燃やした代謝物質として乳酸が産生されます。「解糖系」と言う事もあります。酸素を使わないので「無酸素性機構」ともいいます。
そしてさらに心拍数が上がり全速力最大パワーハイパワーを発揮するときは解糖系でも間に合わないので第三のシステム「非乳酸性機構」が始動します。「ATP-CP系」とも言います。これは酸素も脂質も糖質も使わず筋肉細胞内のクレアチンという物質を使ってエネルギーを作ります。
それで問題のランニングですが、すでに言った通り長時間運動をし続ける「有酸素運動」です。しかし空手には組手にも形にもローパワーで動き続けるような場面はほとんどありません。形には全くない。突きも蹴りも空手の技、動きは全速力ハイパワーです。つまり空手で必要なのは、ATP-CP系と解糖系で「全速力ハイパワーを繰り返し発揮できる持久力」なのです。マラソンやランニングで鍛えられるのはローパワーを長時間継続するための「全身持久力」なので、全力ハイパワーを繰り返し発揮するための「間欠性持久力」「筋持久力」は残念ながら強化できないのであります。
いや、組手のフットワークはランニングのような有酸素運動ではないのか。確かにそんな風にも見えますが、それこそ「カニ」のようなスピードが要求されるフットワークは無酸素運動です。小刻みなハイパワー運動を繰り返している、と考えた方がいいと思います。マラソン選手が組手の動きを全力で続けても3分もたないでしょう。
筋トレやあるいは学生がよくやる「サーキットトレーニング」も軽い負荷でダラダラ回数をたくさんこなしてもローパワー有酸素運動になってしまい、かえって空手に必要な身体能力を落としてしまうことになるのです。
ウオーミングアップで心拍数を上げ筋肉の温度を上げるための軽いランニングは、むしろアップとしてはおすすめです。